人生をハードボイルドに生きるブログ

犬と少女

夕暮れ時の並木路を歩いた。
犬の多い街だった。
街道とぶつかる場所にでた。
大きな犬と少し太めの少女が並んで信号待ちをしていた。
犬はおとなしく少女の横に立っていた。
白地に茶が少し入ったゴールデン・レトリバー。
私は、その斜め後ろに2メートルほど距離をあけて立った。

1分が過ぎ、2分が過ぎたが、信号は変わらない。
信号は押しボタン式だった。「ボタンを押してお待ちください」という赤いランプの表示が見えた。
私はボタンを押した。
すぐに車道の信号が黄色になった。

その瞬間、犬が少女を見上げた。少女も犬を見た。犬の目がキラッと光った。犬と少女が目配せをしたようにみえた。
大型犬もかわいいものだ、としか、その時は思わなかった。
かれらは、横断歩道を渡るとすぐ先の植え込みでいったんとまり、犬は後ろの右足をゆったりと上げ、マーキング行為に及んだ。
ゴールデン・レトリバーも同じだなあと思いながら、私はその横を通りすぎかけた。

突然、かれらは、すごい勢いで駆け出した。
重たそうな身体を揺さぶりながら全力で走るゴールデン・レトリバー。筋肉の躍動、というより贅肉の躍動が目に迫ってきた。それに引っ張られるように、普通のうすい春用コートにしか見えないコートを着た太めの少女が、しっかりモモを上げて、まるでラグビー選手のような迫力で走っていく。
あっという間に、かれらは見えなくなった。

ふたつの躍動する肉体の残像をみながら、私は考えた。
信号が変わりかけたときの、あの犬の目の輝きの意味はこれだったのか?
もうすぐ、だからね
It's gonna happen. だぜ
みたいな、ワクワクした気持を、少女と犬は信号待ちをしながら、楽しんでいたのだろうか?

変わらない信号の下で、「ボタンを押した?」などと聞かなくてよかった。
かれらの物語世界を、そのままにしておけたかな。
そう思いつつ、私はただ、街灯に映し出された葉桜の下を、とぼとぼと歩く犬のように通りすぎた。

犬と歩く人2

2008/05/03 | 犬のように歩く | Trackback 0 | Comment 0

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