人生をハードボイルドに生きるブログ
森が歌っていた
夜明け前にクルマを走らせ、森に着いた。
涼しい森は癒しの空気に満ち満ちている。
ひと呼吸、ひと呼吸を味わうように歩いた。
ん?
森の奥から音がしたような気がした。
ぎゅぃー、ぎゅぃー。
確かに聞こえる。
立ちどまって耳を澄ました。
風が吹くたびに、その音は聞こえてきた。
鳥の声とは思えない。動物の声とも思えない。
身体のなかにチェロの低音が響いてくるような悲しげな音だった。
何なんだ?
音は高いところで鳴っているようだった。
アカマツの森に朝の光が差しみ、背の低い広葉樹の葉が、美しいグリーンの斑模様をつくっている。すっかり豊かさを取り戻した森の天井を見上げながら、私は軟らかい地面を一歩一歩踏んでいった。

途中で、二種類の鳥に出会った。
一羽は、腹の白い小さな鳥で、ぴゅるりい、ぴゅるりいと鳴いた。
口笛を返してみた。
すると、また、ぴゅるりい、と鳴いた。
もう一羽は大きな灰色の鳥だった。近づくと、ぎゃひ、ぎゃひーと鳴いた。
つづいて、少し離れたところで、ぎゃひ、ぎゃひーという仲間の鳴き声がした。
小さな鳥は、ちょっと遊んでくれて、大きな鳥は警戒音を発して私を露骨にいやがった。
そんな気がした。
ぎゅぃー、ぎゅぃーという音は、風が吹いたときだけ聞こえてくる。
風が止めば音も止み、森には鳥の声だけが響くようになる。
私は、音にむかって前進をつづけた。
少し樹の密度が低い場所に出た。青い空が覗いていた。
目の前に、すっと立った一本のアカマツがあった。高さ25メートルほどの細目のアカマツだ。音は、まちがいなくアカマツの頭頂部付近から出ていた。
アカマツの裏側に回ると、見えなかったものが見えてきた。
アカマツに、やはり高さ25メートルほどの太いアカマツが、倒れかかっている。
歩いている時は、それが一つに重なり、一本にしか見えなかった。
音に誘われるまま、アカマツが倒れかかる方向にむかって、私はまっすぐに歩いてきた。危険な接近をしたようだ。
倒れ掛かったアカマツには、根元から1メートルほどの部分に大きな裂け目が入っていた。隣のアカマツがなければ、完全に倒れていたはずだ。
支えるアカマツは、倒れ掛かるアカマツよりも、ずっと細い。それでも、しっかりと支えている。
二本の樹は、風が吹くたびに揺れて登頂付近でこすれ合い、ぎゅぃー、ぎゅぃーという音を発していた。
はたして、一本のアカマツが、隣に立つアカマツに、ちょうど支えられるように倒れかかる確率はどのくらいのものだろうか。
10分の1ではない。100分の1もあるとは思えなかった。
それは、相当な偶然だったに違いない。
あるいは、これは樹と樹の「運命的な出会い」というものなのだろうか。
私は手を添えて、恐る恐る、幹を少し揺らしてみようとした。
だが、根元をちょっと押したくらいでは、びくともしなかった。
私は、首を反らせて、高さ25メートルの二本の樹が作りだした巨大な「人」という字を、しみじみと見上げた。
風が吹いた。
ぎゅぃー、ぎゅぃーと、アカマツが歌った。

涼しい森は癒しの空気に満ち満ちている。
ひと呼吸、ひと呼吸を味わうように歩いた。
ん?
森の奥から音がしたような気がした。
ぎゅぃー、ぎゅぃー。
確かに聞こえる。
立ちどまって耳を澄ました。
風が吹くたびに、その音は聞こえてきた。
鳥の声とは思えない。動物の声とも思えない。
身体のなかにチェロの低音が響いてくるような悲しげな音だった。
何なんだ?
音は高いところで鳴っているようだった。
アカマツの森に朝の光が差しみ、背の低い広葉樹の葉が、美しいグリーンの斑模様をつくっている。すっかり豊かさを取り戻した森の天井を見上げながら、私は軟らかい地面を一歩一歩踏んでいった。

途中で、二種類の鳥に出会った。
一羽は、腹の白い小さな鳥で、ぴゅるりい、ぴゅるりいと鳴いた。
口笛を返してみた。
すると、また、ぴゅるりい、と鳴いた。
もう一羽は大きな灰色の鳥だった。近づくと、ぎゃひ、ぎゃひーと鳴いた。
つづいて、少し離れたところで、ぎゃひ、ぎゃひーという仲間の鳴き声がした。
小さな鳥は、ちょっと遊んでくれて、大きな鳥は警戒音を発して私を露骨にいやがった。
そんな気がした。
ぎゅぃー、ぎゅぃーという音は、風が吹いたときだけ聞こえてくる。
風が止めば音も止み、森には鳥の声だけが響くようになる。
私は、音にむかって前進をつづけた。
少し樹の密度が低い場所に出た。青い空が覗いていた。
目の前に、すっと立った一本のアカマツがあった。高さ25メートルほどの細目のアカマツだ。音は、まちがいなくアカマツの頭頂部付近から出ていた。
アカマツの裏側に回ると、見えなかったものが見えてきた。
アカマツに、やはり高さ25メートルほどの太いアカマツが、倒れかかっている。
歩いている時は、それが一つに重なり、一本にしか見えなかった。
音に誘われるまま、アカマツが倒れかかる方向にむかって、私はまっすぐに歩いてきた。危険な接近をしたようだ。
倒れ掛かったアカマツには、根元から1メートルほどの部分に大きな裂け目が入っていた。隣のアカマツがなければ、完全に倒れていたはずだ。
支えるアカマツは、倒れ掛かるアカマツよりも、ずっと細い。それでも、しっかりと支えている。
二本の樹は、風が吹くたびに揺れて登頂付近でこすれ合い、ぎゅぃー、ぎゅぃーという音を発していた。
はたして、一本のアカマツが、隣に立つアカマツに、ちょうど支えられるように倒れかかる確率はどのくらいのものだろうか。
10分の1ではない。100分の1もあるとは思えなかった。
それは、相当な偶然だったに違いない。
あるいは、これは樹と樹の「運命的な出会い」というものなのだろうか。
私は手を添えて、恐る恐る、幹を少し揺らしてみようとした。
だが、根元をちょっと押したくらいでは、びくともしなかった。
私は、首を反らせて、高さ25メートルの二本の樹が作りだした巨大な「人」という字を、しみじみと見上げた。
風が吹いた。
ぎゅぃー、ぎゅぃーと、アカマツが歌った。

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